・・・黒くてツルツル。ツヤツヤ。シングルチェリーのヒップなり・・・
ベランダでバラの実(バラの場合「ヒップ」と呼ぶことが多い)が見られるようになった。たいていのものはまだ緑色だが、早咲きの品種のいくつかはすでに色づいている。
バラの実、というと「赤」を思いうかべる人が多いだろう。花屋で枝物として売られているノイバラや「スズバラ」の名で通っているらしいロサ・グラウカ(ロサ・ルブリフォリア)の実は赤い。庭先で見られるモダンローズの実も微妙な違いはあっても赤いものが多い。
赤い実もかわいらしいが、私がとくに愛してやまないのが「黒い実」である。赤い実が古びて黒くなったものではなく、緑色から徐々に色づき最終的に黒くなる実だ。
黒い実をつけるバラの代表がロサ・ピンピネリフォリアで(ロサ・スピノシッシマ)で、スコッチローズとも呼ばれている。枝葉細くくねくねと伸び棘が多い。葉は小さく9〜11枚あり、花屋で見るようなバラしか知らない人にとってはこれがバラかと思われるかもしれないバラである。原産はヨーロッパ、西アジア。花は白い一重でくっきりと美しい。実は正確には黒っぽい紫褐色で赤味のある黒という感じである。
私はどうもこのスピノシッシマ系のバラが好きで、少し減ったが仲間を数種類育てている。原種であるロサ・ピンピネリフォリアは持っていないが、それを少し大きくしたようなとしか表現できないロサ・スピノシッシマ・アルタイカがある。ナーサリーの解説などでは、スピノシッシマより樹型、花の大きさが一回り大きいとされているが、関係は明らかになっていないようだ。「ロサ・アルタイカ」とも「グランディフローラ」とも呼ばれている。
そのアルタイカの実がすでに黒っぽくなっている。スピノシッシマの仲間は弓なりに伸ばした枝に花が並ぶように付くのが特徴だが、うちのアルタイカは枝に並ばず枝先に一輪ずつ咲く。枝が細いので実の重みでさらに枝垂れ、風で揺れている。球形よりやや平らな実は直径1センチ程度。
アルタイカの実を「黒」と呼べるかどうかは微妙である。個人的には「黒といっていいような、ちょっと違うような」という感じ。
で、もっと黒い実が見たくてハイブリッド・スピノシッシマ(スピノシッシマの交配種・交雑種)であるシングル・チェリーを昨年手に入れた。
このバラは目が醒めるようなチェリーレッドの一重の花を咲かせる。黄色いシベと鮮やかな色の対比がきれいで、派手な色だが一重のためうるさくならずかわいらしい。花びらの裏が白っぽいところがおもしろいと思う。「レッドネリー」と呼ばれているバラと同じだとする向きもあるが、ヒップに毛がついているのが「レッドネリー」、つかずにツルツルなのが「シングルチェリー」という話も聞く。一応その説に従うと、わが家のはツルツルなので「シングルチェリー」ということにしておく。
買い求めたナーサリーでも「シングルチェリー」としていた。カタログには「レッドネリー」しかなかったのでそれを注文すると、品切れとのこと。あきらめていたら再度電話があり「シングルチェリーなら1つ残っていました」とのこと。違いを追求すればよかったのだが当時は同じものだと思っていたので素直にそのまま購入した。
毎度のことだが立派な苗が送られてきた。「レッドネリー」は前にも育てたことがあるのだが、強い剪定をした苗だったのか樹型はいわゆる「ブッシュ型」(つる性ではな木立性)だった。しかし、やってきたシングルチェリーは、つる性ではないもののすらりと枝が1メートル近く伸びて「半つる性」に近い。以前あったレッドネリーより樹型が繊細である。
正直なところ、私は黒い実が見たかったので花はさほど丁寧に見ていなかった。置き場所もあまり条件がいいところには置いていなかった。花も小さめだったように思う。が、今目の前にある実は私の期待に十分応えてくれるもので、ほとんど「黒」である。
細い枝、小さな葉、そして黒く丸い実・・・この組み合わせはとてもいい。シックなことこの上ない。大切にしなくちゃ!