今日は手芸屋。そして、今日の店は健在で、先日も買い物ついでにいろいろな情報を仕入れてきた。
その店は東横線の線路下にある小さな店である。ホームから階段を降りて改札を抜けると、ちょうど線路下にあたる所にいくつかの店がある。東横線にはよくあるスタイルで、突き当たりは東急ストア、その手前に果物屋、洋菓子屋、和菓子屋、揚物屋、パン屋、時計屋、持ち帰り専門の寿司屋、化粧品屋、DPE、ドトール、そして今日話題にする手芸屋が並んでいる。
いずれもかなり昔からある店で、とりたてて珍しいものを扱っているわけではない。時計屋などは、時計よりも安い傘の方が売れているような気もするし、揚物屋もけっこう遅くまで売れ残った弁当類を割り引いて販売していたりして、商売は楽ではないことを思わせる。が、つぶれることなく残っているということは、昨日の花屋とは逆に地域性に合っているのではないか。
手芸屋はそれらの店の中でも目立たない奥の方に位置し、どの店もそうであるように狭い。その狭い店の中に、様々なものを置いている。手編み用の糸、針、ボタン、ビーズなどから手芸に必要な細々とした道具類がところ狭しと並べられ、つり下げられているのだ。
店は年配の夫婦がやっていて、2人揃っている時もあればどちらか1人のこともある。たいていは、見本として展示されている様々な手作り品のサンプルを作っていて、先日もご主人が編み物をしていた。おもしろい糸だったので、編み方や針の号数を聞いたことから話しが弾み、その店の方針のようなものを聞くことができた。
たとえば、その店では一般的な、オーソドックスな毛糸はあまり置かないそうである。なぜなら、そういった糸はどこでもあるし、他店の方が展示スペースがある。まとめて欲しい場合は、ユザワヤなどに行った方が安く買える。だから、その店ではちょっと変った糸を選んで入荷するそうだ。
変った糸というのは、ラメが入っていたり、ファーのようだったり、何色かの色と何種類かの素材を合わせたような複雑な印象の糸だったりと多彩である。糸が複雑なので、編み方は単純な編み方をするサンプルが多く、編み図と手元を交互に見ながら編まなくてはならないような複雑な編み込みの作品はあまりない。
顧客層も年配の人が多く、中には今まで編み棒を持ったことがないという人もいるそうだ。小さい地元密着の店だけに糸を買えば編みたいものの編み図のコピーはくれるし、編み方が分からない場合はいつでも教える、「最後まで面倒みます」とご主人。物覚えが悪い年齢層にはありがたい。
はっきりいって、あかぬけたセンスの店ではない。が、客に対して柔軟に対応し、丁寧に教えるという姿勢はかなり評価できると思うし、だからこそ百貨店の手芸売り場が激減している現在でも残っているのだと思われる。熱心にいろいろな話をしてくれるのもいい。やりとりをしながら物を買うという昔ながらの商売はここでも生きている。
今までたいしたものは買わなかったが、これと思うサンプルを見つけたらとりあえずその店で材料を買い、教えてもらい、編み方やコツを覚えたら次は自分の好きな糸で編めばいい・・・これからは、ちょっと利用度が高くなるかもしれない手芸屋なのである。