・・・トコトコ、トコトコ。あっという間に目の前に・・・
どうやら鴨長明は皮肉屋だったようである。平安時代から鎌倉時代という激動の時代、思うに任せぬ人生を送らねばならなかったことも関係しているのかもしれない。しかし、方丈記に見る鋭い考察を読むとき、これは生来の素質だったのではないかと思えてくる。そして、長明が皮肉屋だったらしいと知り、ある種の親近感を覚えた。
この日記をある程度読んでくださっている方なら、「なるほどね」と思われるかもしれない。「やっぱりね」と少し身を引きながら微笑むかもしれない。そう、私は皮肉が嫌いではないのだ。
物事を批判する時の方法として、真っ正面から物申すという手もあるが、常にそんなことをやっていては身がもたない。身が持たないばかりでなく、明らかにそんなことをし
ても無駄なことだってある。そんな時はやや斜めに構え、皮肉のひとつでも言いたくなるではないか。意地悪だとか性格が悪いとか言われようと、「いい人」だと思われたいとは思っていないのでいいのだ。
ところで、「皮肉」と「イヤミ」の違いとは何だろう。同じだと思っている人もいるかもしれないが、私は違うと思っている。「皮肉」は物事の本質を突くが、「イヤミ」は単なる負け惜しみや意地悪から出るもので、本質と関わりないことが多いというの
が私の感覚だったが、国語辞典で調べてみるとどうやらそうでもないことがわかった。
●皮肉
【1】(相手を非難・批評する気持ちで)事実の反対のことを言ったりして、意地悪く、遠回しに相手の弱点を突くこと。
【2】意地悪な様子。
【3】(物事がすべて思い通りにならず)ぐあいの悪いことばかり起こる様子。あいにくな様子。
●イヤミ(厭味)
【1】相手に訴える刺激が強過ぎて、不快な感じを与える様子。
【2】客観的にはそれなりに筋が通ってはいるが、その際そう言わなくても(しなくても)いいのにと思われることを言ったりしたりして、相手の癇に障ること。また、その言動。
以上は新明解国語辞典(第四版)の解説だが、「そう言わなくてもいいのにと」なんていう辺りはさすが新解さんである。
が、皮肉ってそういうことだったんですか?と少々意外だった。国語辞典の説明がすべて正しいとは限らないかもしれないが、とりあえず私の間違い、勘違いということにしておく。
しかし、それではちょっと気が済まないので、今度は英語の辞書を持ちだしてきた(研究社のNEW COLLEGE JAPANESE-ENGLISH&ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY)。
●ひにく
sarcasm satire irony (反語的) ; cynicism(冷笑)
●sarcasm
皮肉、あてこすり、いやみ、風刺(cf.irony)
●satire
【1】風刺 【2】皮肉、いやみ
●irony
反語;(穏やかな)皮肉、あてこすり、いやみ
うーん。まだなにかぴんとこないが、考えてみたら辞書の定義はある意味表層的なので仕方ないのかもしれない。私の「皮肉」観は、どちらかというと「風刺」に近いような気がする、ということにしておこう(^_^;
で、突然鴨長明の話に戻るが、長明はジャーナリストの如く現場主義者であり、あの時代の悲惨さを実際自分の目で見て歩いたらしい。盗賊に脅えつつ邸内にこもっていた貴族たちとは違うのである。だからこそ、長明の簡潔な文章は説得力がある。加えて長明には時代を見つめる鋭い視線があり、それが(私が考える)皮肉となって出現する。それが小気味いいのだ。
長明はエッセイストであり、音楽家であり(琵琶の腕前は相当だったらしい)、また歌人でもあった。歌論書を著しているくらいだから知識も相当あったのだろう。しかし、歌人としては、たとえば藤原定家と比較して無名に違い存在である。そんな長明が「歌」について鋭い皮肉を言っている・・・というか言いきっているのがおもしろい。
「中古の体は、学びやすくして、しかも秀歌はかたかるべし・・・今の体は習ひがたくして、よく心得つれば、詠みやすし」
「中古の体」というのは昔の歌、とくに新古今集以前の歌のことらしい。「今の体」は定家などを中心にして当時流行っていた、いかに本歌取りを上手にするかを重要視するスタイル。
つまり長明は、「昔のスタイルはわかりやすいがいい歌を作るのは難しい。今のスタイルは難しいが習得してしまえばいい歌をつくるのはカンタンである」と「地下人」の身分でありながら有名歌人(貴族や僧侶が主メンバー)を堂々と批判したことになる。
話があちこち飛んで恐縮だが、私はこのような皮肉が好きだということを言いたかったのだ。「皮肉」でも「イヤミ」でもどちらでもいい。本質を鋭く突く物言いは気持ちいいものだ。たとえその矛先が自分に向かっていて、少なからず自分が傷ついたとしても、痛みの中にどこか気持ちよさがあるように思う。
*昨日あんなこと(メリハリ云々。リズム感云々)を書いたばかりだというのに。
*だらだらと長く書いてしまって・・・
*やっぱり考えながら書くとこうなっちゃうのよね。いかんね。
*それはさておき、今日は何故かぽっかり時間が空いてしまった。
*来るべき仕事が来ない!一番やっかいなヤツが!
*もしかして連休明けにずれ込むとか?うひひ。
*と思っていたら、そうは問屋がっ!
*来ましたよ、電話が。夕方に。しかも資料は明日着で。
*結局予定どおり2日までは仕事だな。はい、ぶつぶつ言わずにやります。
*todayの「photo」>「
eyes」にモノクロの桜をアップ。
*
薔薇記、更新。