・・・南側のベランダから見える冬木立。春はもうそこまで・・・
昨日は日本全国がアイススケートに釘付けだったのではないだろうか。オリンピック二連覇を狙う羽生結弦選手の動向が逐一伝えられてきたのも、この日のため。オリンピックそのものにはほとんど興味のない私も、男子フィギュアだけはちょっと気になっていた。
例によってテレビを見ないので、結果は夕方のネットニュースで知った。その後動画を探して見てみたが、本当に嬉しそうでよかったと思うと同時に、これまでどれだけ苦労してきたのだろうかと彼の強さを讃えたい気持ちになった。
右足首のケガは伝えられているより深刻だとか、コーチと確執があるだとか、様々な噂が飛び交っている。そんな中、日本のみならず世界各国から羽生ファンが極寒の会場に詰めかけ、必死の思いで応援している。ファンの期待は嬉しいに違いないし支えにもなるのだろうが、厳しい勝負の世界にあってはその闘いへのプレッシャーを増す要因にもなる。それらをすべて引き受けた上での堂々たる勝利。見事だと思う。
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羽生選手のスケーティングは他の選手と一線を画するものだと思う。専門的な知識は全くないのだが、流れるような、とでもいおうか。他の選手だと、「ほら、跳ぶぞ、跳ぶぞ」と思わせておいてから跳ぶのだが、彼は流れるように、さりげなく跳躍し、鮮やかに決める。美しい、と思うのはそんな時だ。
美しくあるためには見えないところで血のにじむような努力をしなければいけない。持って生まれた才能というものもあるが、その才能が大きければ大きいほど、それを伸ばすために必要なエネルギーもまた大きい。湖を優雅にすすむ白鳥も水面下では足をばたつかせている・・・と、いつか誰かが言っていたが、まさにそんな感じだろうか。
伝え聞くところによると、羽生選手のコーチであるブライアン・オーサー氏は銅メダルをとったハビエル・フェルナンデス選手など他の選手のコーチもやっているそうな。ブライアン氏はジャンプよりも全体的な芸術性を重視するらしく、それを素直に聞くフェルナンデス選手を優勝させたいと思っている云々・・・本当かどうかはわからないが、選手とコーチの関係というのも思っている以上に難しいのかもしれない。
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「ユヅルは言うことを聞かない」とブライアン氏。あくまでも4回転ジャンプにこだわりつづけることは、コーチとの信頼関係にヒビを入れることにもなりかねない。しかし羽生選手はまだ完治していないであろう身体で自分の意思を通した・・・ことになるのだろうか。その強情さは王者の証であるように私には思える。
なんだかんだ言っても演じるのは選手本人だ。コーチではない。失敗して自らの評判が悪くなることを恐れるようなコーチであれば、関係を続ける価値はない。氷の上に立てば、選手は一人きりで闘わねばならない。すべてを引き受けた上で一人闘う。その孤独が王者を王者たらしめるような気がする。
羽生選手にはゆっくり静養しながら足の完治を目指してほしい。なんでも、フィギュアの採点方法が変わるらしく、ジャンプに対する比重が少なくなるようだ。あまりにみなが4回転、4回転と血眼になっているのはよろしくないと以前から思っていたが、ようやく変わることになったようでよかった。芸術性でも羽生選手は優れていると思うので、まだまだこれからも滑っている姿を見せてほしい。
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昨日は将棋の世界でも、藤井5段が羽生竜王を破るという快挙をやってのけた。そのまま決勝戦でも勝ち、最年少の15才6ヶ月で棋戦優勝という記録も作っている。あのぼーっとした雰囲気の外見とは裏腹に、若者らしい闘いぶりだったようだ。
史上初の永世七冠を達成した羽生竜王の心持ちやいかに。勝負の世界は本当に厳しい。しかし、若い力に屈したからといって竜王の孤独は傷つくことはないだろう。王者の孤独はそんなにヤワではない。