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「存在の耐えられない軽さ」

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何度か書いているが、私には繰り返して観たくなる“永久保存版映画”がいくつかある。いつなにをきっかけに観たくなるかわからないのだが、一度観たい!と思ったら矢も盾もたまらず観たい!観たいったら、観たい!(^^;) なので、できるだけそういう映画はDVDを買ってそれに対応できるようにしている。最近はかなりお安い廉価版も多くなってきたのはとてもありがたい。

そんな映画のひとつに「存在の耐えられない軽さ」がある。原作はチェコ・スロバキアの文豪、ミラン・クンデラ。予告編をさきほどはじめて見たのだがやけに「エロティシズム」を強調しているように思えた。たぶん観客動員のためだろうが、私はむしろ「プラハの春」という時代のうねりの中でそれぞれ懸命に生きた女2人、男1人の物語といった印象。もちろん「エロティシズム」を感じるシーンはいくつかあるが、主題ではないと思う。

女は自由奔放な画家サビーナ(レナ・オリン)、温泉施設のウエイトレスをしていたテレーザ(ジュリエット・ビノシュ)、そして優秀な外科医で遊び人のトマシュ(ダニエル・デイ=ルイス)。トマシュはある日出張で田舎の温泉施設まで手術をしにいき、ふと見かけたテレーザに興味を持ち、いつものごとく軽く声をかける。今の生活から抜け出そうとしていたテレーザはその後大胆にもトマシュの住まいまで押しかけ、一緒に住むようになる。今まで数々の女たちを手玉にとってきたトマシュもテレーザの一途さと積極性にはタジタジだ。が、テレーザと暮らしはじめてもトマシュの女遊びはいつものまま。中でも束縛を嫌うという点で理解し合っているサビーナとは一種特別な関係を続ける。

テレーザはトマシュの軽薄な行動に苦しみながらも同棲を続けるが、耐えきれなくなって家を出ようとする。そこへやってきたのが、ソ連軍のチェコスロヴァキア侵攻。静まった夜半の街を戦車が容赦なく通り、民衆を不安に陥れる。そしてチェコはふたたびソ連支配の暗い時代を迎える。

トマシュとテレーザはサビーナがいるスイスに亡命し、テレーザはサビーナの紹介で雑誌の写真を撮る仕事を始める。しかしトマシュの女遊びは相変わらずでテレーザはついに我慢できなくなり家を出る。「私にとって人生はとても重いものなのに、あなたにとっては軽いのね。私はその軽さに耐えられない」という書き置きを残して。

その後2人はふたたびプラハに戻るが、そこも安住の地ではなくなっていた。当局の意向に逆らったトマシュは医師の仕事を失い、愛していなくてもセックスができるかどうか試そうとしたテレーザは勤め先のカフェで知り合った男の部屋に行くが、相手の正体がわからず不安からパニック状態にまでなる。そして2人はプラハを離れ、地方の農村で暮し始める。やっと訪れた平穏な日々だったが・・・

同じ映画を何度か観ていると、感じること、強く印象に残るシーンなどが微妙に違うことに気づく。映画は変わっていないから観ている私自身が変化しているということだろう。何年かおきに繰り返して観てくると、その変化を知ることができておもしろい。

最初のうち、私はサビーナに共感を感じ、あまりに一途なテレーザには図々しさを感じてどこか反感を持った。今やフランスの大女優であるジュリエット・ビノシュはさすがに上手いとは思ったものの。

しかし、今回は彼女の一途さ、真剣さが可愛らしいと思え、その強く深い愛情がトマシュを変えていく過程がとてもいいと感じた。都会を離れ、かつての仕事を離れ、気さくな仲間たちとの肉体労働をすることによってトマシュは変わり、テレーザを深く愛するようになる。愛犬の死を乗り越え、2人はこれからずっと一緒にその平穏な田舎暮らしを続けていったであろうに、最後に突然悲劇が起きる。いや、それは悲劇なのだろうか。

アメリカに亡命して海辺の街で暮すサビーナのもとに、ある日手紙が届く。読んだサビーナの顔がみるみるうちに悲しみに沈んでいく。トマシュとテレーザが交通事故で即死したという知らせだった。2人は仲間とダンスをしに酒場まで行き、1泊して帰る途中だった。前夜の雨で道がぬかるみブレーキがきかなかった、と手紙には記されていた。

果たしてそれは悲劇なのか。もちろん、まだ若い2人が突然死んでしまうのは悲しい出来事に違いないが、映画のラストシーンからは悲しさよりも満たされた喜びさえ感じるのだ。

朝の田舎道をトマシュの運転で2人はわが家に帰っていく。微かな微笑みを浮かべたトマシュの顔を見てテレーザが聞く。「なにを考えているの?」と。トマシュは答える。「どんなに幸せだろうって」。2人は満ち足りた顔で家へと向かっていく。前方の風景が次第に白く霧がかかったようになっていく・・・Fin。

今回私はこのラストシーンがいたく気に入り、感動すら覚えた。その後2人に起きるであろう出来事がわかっていても、悲しい貴気分にはならず、むしろそこまで愛し合っていた2人が不慮の事故とはいえ同時に死んでいけたことがなんだか嬉しくなるくらいに。どちらが残っても残された者の苦しみはとても大きいだろうことは簡単に予想できるし。幸福の絶頂で死ぬというのは悪くないのではないか、などと少し不謹慎なことまで考えてしまった。

なにはともあれ、見ごたえがある映画である。テレーザが侵攻してくるソ連軍とそれに抗議する民衆の写真を夢中になって撮るシーンもいい。あれを観ると私はカメラ片手に外に出てシャーッターを押しつづけたいような衝動さえ覚えるのだ。原作も読んだが、これももちろんおもしろい。こういった内容に興味のある方にはぜひともオススメしたい映画&原作である。

*主演のダニエル・デイ=ルイスってアカデミー賞主演男優賞を3回受賞した唯一の俳優なんだってね。

*今日から2月。まだまだ寒い!

| - | 12:46 | comments(0) | - |
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