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女の前髪

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・・・お福さんの前髪は真ん中分け。耳を出すのは下品と思われていた時代もあったとか・・・

1月28日に「女の踵」を書いた。「女の・・・」シリーズの第二弾か!てな冗談はさておき、今日は「前髪」。

私は普段前髪をオールバックにし、他の髪は後ろでひとまとめにしている。いわゆる「ひっつめ」状態なのだが、前髪はまだ伸び切っておらず時々落ちてくる。ワックスやムースをつけていればいいのだが、洗っただけで何もつけていない時は特に。鬱陶しいので前髪だけまとめてピンで留めたりしているが、早く後ろの髪と一緒にまとめられるくらい前髪が伸びてくれればいいのにと思う。

ふと、20代半ばに友人が言っていたことを思いだした。20代半ばといえば大人の女、自立した女に憧れを抱く年齢だと思うが、私より少しだけ先輩の友人はある日前髪をきっちりピンで留めておでこが丸見えになるヘアスタイルで会社にきた。なんでも、憧れている年上の女性に、「自立した女性はおでこをすっきり出すもの」だと言われたらしい。たかがヘアスタイルと言うなかれ、ちょっとしたことで気分は変わるのである。実際、彼女は少しだけだが大人っぽく見えた。

そういえば、有名な島崎藤村の「初恋」という詩に、「まだあげ初めし前髪の」という一節がある。当時(明治時代)まで女性は大人になると前髪をあげるのが常識だったようだ。少女から大人になる過渡期の、まだ伸び切っていない前髪をあげたばかりの初々しい恋人像が目に浮かぶ。友人におでこを出すことをすすめた年上の女性の中にも「大人の女性=前髪をあげる」という意識があったのだろうか。

しかし、私はというと彼女の言うことに納得しながらも自分はおでこを出すことはできなかった。おでこを出してしまうと、それでなくてもぼんやりした顔立ちがよけいにぼんやりするような気がして、前髪を下ろすスタイルを変えることはなかった。自分の顔立ちを心のどこかで否定していたのかもしれない。

それから幾星霜(!)ようやく私も心から「デコ出し」がここちよいと思うようになった。慣れてしまうと少しでも前髪が落ちてくると鬱陶しい。ぼんやりした顔立ちはそのままで、なおかつ老いの色が日に日に濃くなっている。それでも、これでいいのだと思えてきた。前髪を下ろし続けていたのは、どこか実際の自分よりよく見せたいという気持ちがあったからだと思う。そういう気持ちは悪くはない・・・というよりも、どちらかというと必要なものだと思う。誰しもが持っている心持ちだとも。

しかし、還暦を迎えるあたりから、やはり何かが変わったのだ。白髪も染めず、前髪も作らず、ありのままの自分でいいと思うようになってきたといったところだろうか。どうでもいい、というのとは違う。ありのままの自分を肯定した上で、いろいろなオシャレを楽しみたいと思うようになったのだ。

しかし、過去をいろいろ思い起こしているうちに小学校時代は前髪をあげておでこを出していたことを思いだした。入学時はおかっぱ頭だったので前髪は眉の上でまっすぐに切られていたが、その後伸びてきたので母が結んだのだと思われる。私も見知らぬ同級生にすれ違いざま「あはは!こいつ、こけしみたい!」と言われてショックだったので、おかっぱは止めたいと思っていたようだ。

母は前髪でも後ろの髪でも伸ばしっぱなしというのが嫌いですぐに結びたがった。自分でできないうちは登校前にがんがん引っ張られてポニーテールにされたり、きっちりしたおさげ髪にされたりしていた。思い切り引っ張るから痛くて涙が出たこともあった。そんな思い出への反発からとも思えぬが、中学生になったころからほとんど前髪は短くしておでこにかかるようにしていたと思う。

先日出かけた時に、久しぶりに髪を下ろしてみた。去年12月にパーマをかけたのだが、私はパーマが長く残る髪質らしく3ヶ月以上立ってもまだかなりウエーブが残っている。ムースでスタイリングすればまあまあ見られるかなと思ってそのまま出かけたのだが、一日中落ち着かなかった。半年以上、きものの時だけでなく洋服の時も髪はまとめていたので、顔にかかってこなくても鬱陶しさを感じるようになったのかもしれない。

かつて母がそうだったように、私も伸ばしっぱなしの髪を鬱陶しいと思うようになったということか。伸びたらまとめる、という母のDNAを受け継いだということだろうか。髪のためにパーマももう卒業したいと思っているところで、前髪を伸ばしながらどういったスタイルにまとめればいいかいろいろ研究したいと思っている。

| - | 08:26 | comments(0) | - |
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