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優性思想

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先日朝刊を取り込んだ時、「旧優生保護法」という大きな文字が目に飛び込んできた。旧優性保護法に基づき不妊手術を強制された女性が国を相手に損害賠償を求める訴訟を起こした、というニュースである。女性は60代で「遺伝性精神薄弱」と診断され1972年に不妊手術を受けた。BBCが伝えるところによると、女性は乳児期に受けた口蓋破裂の手術後に知的障害が残ったという。

15才といえば最も多感な年頃である。口蓋破裂の手術を受けたことも大きな疵として残っていたであろうに、強いられて不妊手術までされてしまったとは・・・しかも手術の後遺症ともいえる癒着がおき、右卵巣摘出を余儀なくされたという。1972年に15才、ということは計算してみると私より1才下ということになり、自分の過去をふり返ってみればなんと無邪気に生きてきたことか、と思わざるをえない。

毎日新聞は、旧優性保護法下で行われた優性手術の実態を調査している。1963〜81年度の宮城県において手術を受けた記録がある男女は859人。未成年者が半数以上の52%を占めていたという。最年少は9才の女児、10才の男児で多くの年度で11才前後の手術が行われていたというから驚きだ。まだ小学生である。そんな子どもたちが理由が分からないまま一生に影響を及ぼす手術を強制されていたとは。

また、旧厚生省や毎日新聞の調査によると、同意のないまま優性手術を受けた人は同法(旧優性保護法)施行中全国で16,475人に上り、最多が北海道(2,593人)で宮城県(1,406人)、岡山県(845人)と続く。

恥ずかしながら、私は「優性保護法」が現在「母体保護法」になっていることさえ知らなかった。新聞が伝える「旧優性保護法」とは私が知っている「優性保護法」のことであり、1996年に改組されるまでは優性学的思想に基づく強制断種等に関わる条文が存在していたのだ。私が息子を産んだのは1990年。その時はまだ「旧優性保護法」が存在し、数はだいぶ少なくなっていたであろうが日本のどこかで強制的に不妊手術をされている人がいたかもしれないのだ。

今、私と同年代の女性が提訴したからこのような実態を知ることができたが、そうでなければ私は全く知らないままでいただろう。子育ての苦労云々が様々なところで取上げられている昨今ではあるが、ついこの間まで子どもを生む権利を強制的に剥奪されていた女性たちがいたのだ。自分の無知が一番ショックだった。

うっすらとではあるが「優性」という言葉に抵抗を感じてはいた。「優性遺伝」「劣性遺伝」でいう「優性」「劣性」は、優れている、劣っているということではなく、形質が現れやすい方を「優性」、現れにくい方を「劣性」と表していたと記憶する。が、「優性保護法」の「優性」はナチスの「断種法」を思わせる。肉体的・精神的な面で、普通の人より「劣っている」形質が遺伝的に現れるかもしれないと思われた時、強制的に生殖機能を奪うのであるから。

いつだったか、ハンセン病について調べていた時、施設内で夫婦として暮してきた人たちの話を読んだ。施設内で知り合い夫婦となるのは認められており、夫婦棟のようなところに住んでいたという。しかし、夫婦になる前には不妊手術が行われ、彼らは夫婦でありながら子どもを持てない暮らしを強いられた。世間から隔離され、苦しみが多い生活も子どもがいればどれだけ救われたことだろう。

このニュースを知った時、私はふと「羊水検査」を思い出した。妊娠中の母体から羊水をとって検査するものだ。胎児は羊水の中で新陳代謝を繰り返して成長する。だから羊水の中には胎児の組織が混ざっており、それを検査することにより染色体や特定の遺伝子に異常があるかどうかわかる、とされている。

検査すればすべてがわかるわけではないが、それでも受ける人はある程度いるようだ。費用は保険外なので10〜20万円。羊水検査以外の検査としては母体血清マーカーテスト(1〜2万円)、新型出生前診断(NIPT・20万円前後)があるらしい。

受けるかどうかは個人の判断次第で、賛否両論あるようだ。たしかに、妊娠すれば誰でも多かれ少なかれ、ごく普通に生まれてきてほしいと思う。差別用語になるかもしれないが、「五体満足」に生まれてきて欲しい、知的障害がない子どもであってほしいと思う。それは当たり前のことで責められることではないだろう。

しかし、羊水検査を受けるとなると、もし陽性(なんらかの障害を持つ子どもが生まれる可能性がある)と結果が出た場合、かなり迷うのではないだろうか。国が「優性保護法」のもとにやってきたことを、個人(親)が行うことになりかねない。今でも羊水検査は行われていると思うが、こちらもやはり考え方は人それぞれのようである。

理想を言ってしまえば、障害を持って生まれてきても親子ともども安心して暮せる社会が望ましい。しかし、現実はなかなか厳しく、私自身苦労している親を何人か見てきている。「優性保護法」が「母体保護法」に変わっても、根っこにあるものはあまり変わっていないのかもしれない。法律をすり抜ける道はいくらでもあるのかもしれない。ましてや現政権は弱者を切り捨てるかのような政策を展開している。かつての「優性思想」がまたぞろ復活するとは思えないが・・・

今回の訴訟は、過去のものとして片づけられないものがあると思っている。成り行きをしっかり見ていきたい。

*また雪か・・・嫌いじゃないけれど、凍るとね・・・

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